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海外ベンチャー企業から見た日本市場の魅力ー日本企業はどのような姿勢でのぞむべきか

起業・資金調達 国内No.1メディアの創業手帳様への記事掲載第4弾!

 

今回は、私の韓国ITベンチャー企業の日本支社長時代の経験を踏まえた、海外ITベンチャー企業との組み方についての記事です。

 

以下、掲載記事のほぼ全文を掲載させていただきます。

今後、日本に進出する海外ベンチャー企業と協働する方法やポイントをご紹介します

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響によって、外出規制・デパートや飲食店などでの営業自粛が行われていましたが、ようやく規制が解除され、経済活動も再開され始めています。

 

この機会に、「ニューノーマル(新常態)」と呼ばれる次の時代に向けて、日本進出を目指す海外ベンチャー企業と組み、競争力をつけていきませんか。

目次

  • 韓国のITベンチャー企業からみる日本市場
    • 日本企業と韓国企業の違いとは
  • 海外ITベンチャー企業と日本企業の提携例ー「企業向け検索ソリューションの市場展開」
    • 日本用のモジュール組み込み
    • パッケージ商品の販売代理店
    • システムインテグレーターへのライセンスとノウハウ提供
    • 他社ソフトウェアへの検索エンジン提供
    • 共同研究
  • 日本進出を目指す海外企業との付き合い方ーキーワードは「As Is(アズ イズ)」
    • どのような海外企業と付き合うべきなのか
    • 注意するべきケースとは?
  • 海外企業との組み方とは?
    • 共同商品開発・OEMパートナー
    • ソリューションパートナー
    • 販売・流通パートナー
  • まとめ

韓国のITベンチャー企業からみる日本市場

もともと韓国のベンチャー企業は、自国市場が小さいため、海外を志向しながら商品・サービスをデザインしています。

 

彼らが最初に進出対象国として意識するのは、近隣の経済大国である日本と中国の2カ国です。

 

日本市場は世界で第三位の経済規模を誇り、現在でも韓国と比べてGDPで3倍以上の開きがあります。一方で中国は、著作権保護の問題や、ビジネスへの政治的介入のリスクがあるため、最初の海外進出先として日本を選ぶ可能性があるのです。

 

また、日本企業の保守的なカルチャーは、韓国ベンチャー企業からすると、中長期的な契約を見込むことができるという魅力があります。2010年代前半には、多くの韓国ITベンチャー企業が日本市場を目指していました。

 

結果、一部の例外を除いて、多くの韓国ベンチャー企業が日本市場の開拓に苦戦しました。その理由は、日本を自国市場の延長線上に捉えたものの、二国間におけるIT製品の採用基準に大きな違いがあったからです。

日本企業と韓国企業の違いとは

日本企業と韓国企業では、企業のIT製品採用判断基準と評価体系が違います。韓国企業では「判断が早い」ことが重要視され、日本企業ではとにかく「品質」を重要視します。

 

とくに韓国のIT業界においては、いち早く商品をリリースし、不具合があれば素早くサポートすることで顧客に喜ばれます。

 

韓国企業の判断の早さは、顧客との年次のライセンス更新が約束されないという側面もありますが、ベンチャーにおいてはトライ&エラーの経験を通じて成長していくという考えが根本にあるためです。

 

一方で、日本企業は実績と品質を重んじる保守的な文化があります。

 

では、異なる文化的背景で育った韓国のベンチャー企業が日本に参入すると、どうなるのでしょうか。

 

おそらく、開発会社が十分だと考える品質と、顧客が求める品質のレベルにギャップがあるため、なかなか採用されないという事態に至るでしょう。

海外ITベンチャー企業と日本企業の提携例ー「企業向け検索ソリューションの市場展開」

ここで、私の実体験をもとに、海外企業と日本企業の提携事例をお話しします。

 

当時、私はベンチャーキャピタルから、投資先の韓国ITベンチャー企業に転職し、企業向けの「検索サーバー」と「検索ソリューション」の日本市場における展開を担うこととなっていました。

 

検索ソリューションとは、検索サーバーを中心としたテキスト情報統合・分析システムの呼称です。

 

私のミッションは、日本市場で自社製品の認知度を上げ、導入事例を積み上げることでした。金融機関から畑違いのITベンチャーに飛び込んだため、私はとにかくがむしゃらに動き、40度の炎天下の中、検索サーバーを二輪のキャリーカートで運び、震災当日に余震で揺れる高層ビルで商談に挑みながら、お客様やパートナー様と少しずつ実績を積んでいました。

 

パートナー候補の担当役員やエンジニアを韓国本社までご案内し、社風や商品性能を本社のスタッフと説明したこともあります。

 

これまでの成果につながった提携事例を振り返ると、以下のような種類に分類できます。

海外ITベンチャー企業と日本企業の提携例

  • 日本用モジュール商品組み込み
  • パッケージ商品の販売代理店
  • システムインテグレーターへのライセンスとノウハウ提供
  • 他社ソフトウェアへの検索エンジン提供
  • 共同研究開発

日本用のモジュール組み込み

私たちの検索エンジンは、日本で市場展開するにあたって、文書ソフトの「一太郎」に対応する必要があり、国内メーカーからツールを提供していただくことになりました。

 

当社のエンジンが売れると、相手のツールも売れるので、相手から見込み客を紹介していただいたこともあります。

パッケージ商品の販売代理店

テキストマイニング機能つきの検索サーバーを中小企業や士業、あるいは大企業の部門向けに展開していました。

 

いまでは当たり前となっている「検索ワードに対する関連度順の結果表示」をいち早く商品化していたため、ベンチャー企業のコンテストで表彰されるなど、注目を集めていました。

 

ナレッジ・マネジメント商品を拡充したいソフトウェア商社や、検索ソフトを載せて付加価値をつけたいサーバーメーカー、中小企業に商流をもつオフィス機器商社などに販売代理店となっていただきました。

システムインテグレーターへのライセンスとノウハウ提供

当社はテキスト情報を統合分析し、視覚化する一連のソフトウェアに加え、韓国の国防省や国会図書館、特許庁での導入・運用ノウハウを保有していました。

 

その結果、当社の技術をシステム開発案件で活用できるシステムインテグレーターからは、高度なテキスト情報分析を実現するソフトウェアとしてご関心いただき、提携にいたったこともあります。

他社ソフトウェアへの検索エンジン提供

大手システムインテグレータが開発したグループウェアの検索エンジンとして、またシステム開発会社のバーチャルコンシェルジュ内蔵のテキストマイニング付き検索エンジンとして採用いただき、間接的ですが多くの日本の方々にご利用いただきました。

 

大手企業の新商品を支えた事例は、販売額以上の宣伝効果がありました。

共同研究

セミナーで紹介した人工知能技術を活用したソリューションにご関心いただいた大手通信事業会社と、試験的な共同研究にいたりました。

日本進出を目指す海外企業との付き合い方ーキーワードは「As Is(アズ イズ)」

みなさんがどのように日本進出を目指す海外ベンチャーと付き合い、商売に繋げられるのか。そのキーワードは、「As Is(アズ イズ=そのまま)」です。

どのような海外企業と付き合うべきなのか

前提として、相手が日本市場開拓の本気度と十分な資本力があることが大切です。

 

あなたの会社で十分に調査し、商品の特性とリスクを十分に理解して、「商品に追加の改修なく取り扱うことができる」と判断した相手と組みましょう。

 

先ほどご紹介した私の提携事例は、パートナー各社向けに追加で開発対応したものではありません。日本であれ韓国であれ、大口発注の確約でもしない限り、ベンチャー企業に商品の修正などの支援を期待することはできません。

 

また、あなたが提携先の調査と精査にリソースを割けないのであれば、会社の外形的な要件からもある程度絞り込むことができます。

 

具体的には、日本で営業体制をもつ法人があり、営業、開発エンジニア、テストエンジニアの3人が常駐しているといった場合には、相手の本気度を信用できますよね。

 

おそらく韓国であれば、年商が10億円以上あり、ベンチャー向けの証券取引所に上場している、または上場が見込まれているぐらいの成長ステージでしょう。

注意するべきケースとは?

なんとなく良さそうな海外案件を仲介業者から紹介された場合は、注意しましょう。

 

相手の源泉技術の理解、市場性の調査、日本市場向けの改修有無の確認、品質の確認など、商品をリリースするまでの対応に時間が取られてしまうと、発売したときには、おそらくトレンドから遅れてしまっています。

 

加えて注意したいのが、相手の海外ベンチャー企業が「日本向けに特別なカスタマイズ開発を行った商品」を売ろうとする場合です。

 

実際に日本の見込み客へ商品を紹介すると、機能修正の要望が上がり、何度も改修を求められます。

 

仮に、最初のバージョンで顧客の要望を満たしたとしても、Ver.2、Ver.3…と日本市場のためだけに追加開発するのは、主市場が母国であるベンチャー企業にとって、相当な追加負担となり、そのうち対応が行き届かなくなります。

 

ですから、たとえ完全に商品化できていなくても、あなたの会社ですぐに採用できる商材をもつ相手を探しましょう。

海外企業との組み方とは?

では次に、日本企業の業態をふまえ、海外企業との組み方を説明します。

海外ITベンチャー企業との組み方 

  • 共同商品開発・OEMパートナー
  • ソリューションパートナー
  • 販売・流通パートナー

共同商品開発・OEMパートナー

あなたの会社に開発部門があり、相手の技術を理解し、日本でマーケティングできるのであれば、積極的に海外企業を調査して提携先を探しましょう。

 

日本支社がない規模のベンチャー企業であっても、相手の技術を自社商品・サービスに取り入れる、またはOEMのライセンス提供を受けて、新商品を開発できる可能性があります。

 

提携事業を成功させるためにも、協議の初期段階から相手の海外本社を訪問し、日本の展開パートナーであるあなたと同じ目的意識をもち、それを定期的に確認できる仕組みを構築しましょう。

 

あなたが日本固有のツールをもっている場合は、日本市場を目指す海外企業と協業を始めるのは難しくないでしょう。相手にツールを販売して組み込んでもらうだけではなく、状況次第では、先方の商品を自社ブランドで販売できるかもしれません。

 

また、ある程度の研究開発の予算があれば、試験的にライセンスを購入して、レクチャーやトレーニングを受け、コアな技術情報を吸収できるかもしれません。

ソリューションパートナー

あなたの会社がシステム開発事業を行っており、海外企業との提携で新しいソリューションの提供を考えるのであれば、マーケティング目的のデモ環境を快く提供できるような、体力のある企業と組みましょう。

 

人員体制としては、最低でも本社側に日本事業の専任者が必要で、できれば日本拠点に開発エンジニアがいることが望ましいです。

なぜなら、顧客へのソリューション提案の初期段階において、デモサイトの構築が必要となるのですが、日本事業の専任者がいない場合、本社の社員にとって日本対応は手間にしかならず、対応の優先度は下がる可能性が高いからです。

 

共同開発の場合と同様に、早い段階から相手の本社を訪問し、共通の目的認識をもつことに加えて、可能であれば相手の本国でトレーニングを受け、相手からのサポートなしでソリューション開発できるまで技術習得することも視野に入れましょう。

販売・流通パートナー

あなたの会社の強みが技術力よりも販売力なら、日本法人を構え、カスタマイズ開発とパートナー支援できる体制をもっているか、または、すでに日本展開を技術面で支援できるパートナーがいる相手と組みましょう。

 

もし、日本のパートナーを介さずに直接取引するのであれば、日本法人で自立して開発と顧客対応を継続できるなど、十分に相手の経営体制を確認しましょう。

 

繰り返しにはなりますが、技術的な対応を海外本社に依存していると、サポートが脆弱になりがちです。バグや不具合が発生した場合にも、日本での商品使用環境の再現に手間取り、あなたの顧客対応に支障をきたす恐れがあります。

まとめ

あなたが海外ITベンチャー企業と組む場合、相手に必要な条件は、あなたの会社の強みによって変わります。

 

どのような組み方をする場合でも、主体的に調査し、日本企業と同様のサポートや品質があると過度な期待をせず、あなたの会社で商品やサービスのリスクに対処できるような相手を選びましょう。

 

もし、あなたが日本向けの追加開発なしに「As Is(そのまま)」の形で自社商品に組み込むことができる、または販売できる海外の商品やサービスを見つけられたら、きっとそこに商機があります。

 

みなさんの会社が、海外ベンチャー企業との提携を通して一層発展していくことを期待しています。